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大阪健康安全基盤研究所

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ガの幼虫を用いたレジオネラの毒性(病原性)評価


マウスは、比較的飼育しやすく、ヒトと共通する遺伝子を多く持つことから、感染症だけでなく遺伝病やがんなどの多くの研究で広く用いられている実験動物です。マウスを用いた研究は、ヒトの病気を理解するために重要な多くの情報を与えてくれますが、一方で動物愛護の観点から、無生物や系統発生学的に低位の生物への置き換えを検討することが国際的な共通認識となっています1
本記事では、ハチノスツヅリガを用いたレジオネラ(※)の毒性評価の例を紹介します。

※レジオネラは、肺炎を主徴とする呼吸器系細菌感染症の原因菌の一つ。

  • ハチノスツヅリガの特徴

ハチノスツヅリガの幼虫は、体長数センチで人体に危害を及ぼさず、安価で飼育が容易な生物です(図1)。ヒトと一部共通する免疫システムを持ち、病原体(細菌やウイルスなど)から身を守る力を備えています。マウスに比べ、飼育や実験に必要な設備が小規模で済むことから、マウスに代わる病原体の毒性評価に有用な生物として注目されています。

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図1 ハチノスツヅリガの幼虫

  • ハチノスツヅリガを用いたレジオネラの毒性評価の例

病原体がヒトに病気を引き起こす力を毒性といいますが、ヒトと共通する遺伝子を持つマウスなどの動物に、病原体を感染させ、宿主である動物への影響を調べることでその病原体の毒性を推定することができます。

ある病原体を複数動物に接種した時、その半数が死に至る接種量を半数致死量(Lethal Dose 50LD50)といい、LD50を比較することで病原体の毒性の強さを評価します。例えば、レジオネラの3種類の菌株(AB及びC)をそれぞれ10匹のハチノスツヅリガ(図1)に接種した結果、接種した菌量と72時間後の死亡個体数が「表1」のようになったと仮定します。このとき、接種した菌量(colony forming unitCFU)を横軸、致死率(%)を縦軸に用量致死曲線を描くと、図2のようになります。各菌株のLD50は、緑の点線とグラフの交点における菌量(CFU)に相当します (図2)。専用の解析ソフトで計算すると、ALD50は「9.17×105 CFU」、Bは「2.04×106 CFU」、Cは「5.95×106 CFU」となります。LD50の数値の大きさはCBAの順ですが、LD50が小さいほどその菌株の毒性が強いことを示すので、毒性の強さはABCの順であるという評価になります (2)

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*CFU: colony forming unitの略

表1 レジオネラ菌株の接種菌量と72時間後のハチノスツヅリガの死亡個体数(n=10)

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図2 ハチノスツヅリガを用いたレジオネラ菌株A~Cの毒性比較

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表2 レジオネラ菌株A~Cの毒性評価

  • まとめ

本記事のように、動物愛護の観点から、マウスを含むネズミ科の動物に代ってハチノスツヅリガを使った様々な病原体(レジオネラ、リステリア、肺炎球菌など)の毒性を評価した報告が増えています2。将来、ハチノスツヅリガが、毒性の強い病原体に保有されている未知の病原遺伝子の解明に大きく貢献するかもしれません。



参考資料

1、日本動物実験代替法評価センターHP https://www.jacvam.jp/
2、Guillaume Menard, Astrid Rouillon, Vincent Cattoir, Pierre-Yves Donnio. Galleria mellonella as a Suitable Model of Bacterial Infection: Past, Present and Future. Front Cell Infect Microbiol 2021; 11: 782733.

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