レジオネラ症に関する検査業務の紹介
掲載日:2024年3月26日
レジオネラ症とその原因菌
レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラに代表されるレジオネラ属菌による細菌感染症です。症状は、インフルエンザ様症状(発熱、悪寒、頭痛、倦怠感や筋肉痛)を示すポンティアック熱と、重症化傾向が強いレジオネラ肺炎に大別されます。レジオネラ肺炎の死亡率は5~10%と言われており、呼吸不全や多臓器不全を伴います。
レジオネラ属菌は、もともと土壌や水環境に常在している菌です。しかし、エアロゾルを発生させる人工環境(噴水など)やお風呂で菌が増殖すると、人への感染リスクが高まります。なお、人から人への直接感染はありません。
日本国内での発生件数は、2006年には518件だったものが、尿中抗原検査などの新しい検査法の開発などもあり、2018年には2142件と4倍近く増加し、それ以降2000件を超えています。大阪府でも同様の傾向にあり、2006年に28件だったものが、2018年以降100件近く発生しています。
感染症発生動向調査の結果を基に作成
大阪健康安全基盤研究所での検査について
レジオネラ症は感染症法に基づく4類感染症に分類されており、患者をレジオネラ症と診断した医師は、保健所への届け出が義務付けられています。保健所は、感染原因を明らかにするため、患者の行動調査を実施し、感染源と疑われる施設を認めた場合は、水などにレジオネラ属菌が増殖しているか調査を行うことになります。
当所は、大阪府や大阪市、府内中核市が所管する保健所から依頼を受け、患者由来の臨床検体(喀痰など)と施設由来の水(浴槽水など)のレジオネラ属菌を検査しています。結果は、保健所が感染源の由来を判断する重要なデータとなります。これまでに、患者由来の菌と、施設由来の菌が同じ種類であった事例、さらには、遠く離れた地域に住んでいる患者から同時期に検出された菌も同じ種類であった事例がありました。
検査上の課題、検査能力強化のための調査研究
レジオネラ属菌の中で最も多いレジオネラ・ニューモフィラは、15種類の血清群(血清群1~血清群15)に分類されますが、レジオネラ症患者から最も分離されるのは、血清群1です。当所の検査(2023年1月から2024年2月末)でも、臨床検体からレジオネラ属菌を分離した18例のうち17例は血清群1に属しており、血清群分類だけでは感染源の由来を判断する決め手になりません。そのため、特定の遺伝子群や遺伝情報の全体であるゲノムを調べる分子生物学的型別法を用いた詳細な比較解析を実施する必要があります。
現在、レジオネラ属菌の分子生物学的型別法には、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法(注1)や、Sequence based typing(SBT)法(注2)などが知られています。一方、近年の細菌分野では、ゲノム全体の塩基配列を対象とする型別法も開発されており、レジオネラ属菌の型別にも応用可能と考えられています。
当所においてゲノム全体の塩基配列における1塩基多型を解析し、それらを比較する方法で、レジオネラ属菌の分析を行ったところ、PFGE法やSBT法より詳細な分類が可能であることが明らかとなりました。一方で課題としては、大量の塩基配列データの取得・処理が必要となるため、実験手技と解析が複雑になること、そして検査費用が従来の分子生物学的型別法よりも高額となることが挙げられました。今後も、各種型別法の特性を把握し、適切な解析法を用いて迅速に関係機関へ情報提供できるよう、日々調査研究を進めています。
注1:DNA上の特定の塩基配列を認識して切断する制限酵素により菌のゲノムDNAを処理し、その切断パターンで分類する方法
注2:特定の7つの遺伝子の塩基配列パターンにより分類する方法
参考資料
厚生労働省:感染症発生動向調査
国立感染症研究所:病原体検出マニュアル(レジオネラ症,令和2年9月1日改訂)
お問い合わせ
電話番号:06-6972-1368