薬剤耐性菌感染症 ーバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症が増加していますー
掲載日:2021年1月15日
日本国内でのVRE感染症の状況
バンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant Enterococci;VRE)感染症は、感染症法により五類感染症に位置付けられ、全数把握の対象疾患となっています。VREは、欧米諸国で重篤な院内感染症の主要起因菌となっていますが、これまで日本国内でのVRE感染症は報告数が少なく、院内感染事例の発生も限られたもので、大阪府内でも2013年から2015年までの報告数は毎年5件程度で推移していました。
しかし、2016年から大阪府内における報告数は増加に転じ、2017年には26件、2018年には24件、2019年には32件が報告され、全国で最多となりました(図1)。また、この間、府内の複数の医療機関でVREによる院内感染事例も発生しました(文献)。さらに、ここ数年間で、静岡県、青森県、奈良県の医療施設においてもVREによる院内感染事例の発生が立て続けに報告されており、VREは、日本国内においても院内感染症の起因菌として重要視されるようになっています。
大阪府内および近隣県で分離されたVREの細菌学的特徴
大安研細菌課および微生物課では、2016年1月から2020年9月に大阪府とその近隣県で患者または保菌者より分離されたVRE 581株について、菌種同定とバンコマイシン耐性遺伝子(vanAおよびvanB)の検出を行いました。その結果、vanA保有のVREが97.9%(Enterococcus avium;8株、E. casseliflavus;2株、E. faecalis;1株、E. faecium;554株、E. gallinarum;1株、E. raffinosus;3株)、vanB保有のVREは2.1%(E. faecalis;1株、E. faecium;11株)で、分離株の95.4%がvanA保有のE. faeciumでした。
vanA保有E. faeciumはバンコマイシンに高度耐性を示すだけでなく他の薬剤にも耐性である場合が多く、有効な治療薬が限られることから世界各国の医療現場で脅威となっています。それゆえ、大阪府とその近隣県内で多数の患者または保菌者からvanA保有E. faeciumが分離されたことは、公衆衛生上の重大な懸念材料であり、その感染拡大防止のためには分離株の遺伝学的関連性を明らかにする必要があります。
vanA保有E. faeciumの遺伝学的関連性
554株のvanA保有E. faeciumについて、制限酵素SmaIを用いたパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法を用いた遺伝子型別を実施しました。PFGEパターンの類似度90%を基準としてクラスタリング解析した結果、554株は148群に分けられ、バリエーションに富んだ遺伝子型のvanA保有E. faeciumが大阪府とその近隣県で広がっていることが明らかとなりました(図2)。一方、院内感染事例ではそれぞれの事例で単一のPFGEパターンを示す菌株が優位に分離されており、特定の菌株による水平伝播が院内感染の原因であることが推察されました。また、遺伝学的関連性の高い菌株が、隣接する複数の医療機関で分離されるケースも散見されることから、周辺地域でのVRE流行状況を把握し、VREの持ち込みを防ぐことが院内感染の発生防止につながると考えられました。
遺伝子型の異なる一部のvanA保有E. faeciumについて次世代シーケンサーによる全ゲノム解析およびサザンハイブリダイゼーションを実施したところ、各菌株の保有するvanAプラスミドが高い類似性を示すことが明らかとなりました。vanAプラスミドは接合伝達により菌株間を水平伝播することから、本プラスミドの広範な伝播が2016年以降のVRE感染症増加の一因となっている可能性があります。現在、細菌課ではVRE感染症増加のさらなる原因究明を目指し、本プラスミドの保有状況やその伝達性について研究を進めています。文献. 大阪府南部の中小病院におけるバンコマイシン耐性腸球菌の患者集積事例, IASR Vol.40 p87-88: 2019年5月号
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