春から初夏の呼吸器感染症の原因ウイルス ~ヒトパラインフルエンザウイルス3型~
掲載日:2019年8月26日
春から初夏にかけての呼吸器感染症
呼吸器感染症の症状(咳、鼻水、発熱など=風邪様症状)の多くは、ウイルス感染によって引き起こされます。ウイルスによる風邪様症状と言うと、インフルエンザに代表される「冬」の感染症をイメージされる方が多いかもしれません。では、「春~夏」はどうでしょう?
当研究所では、 2016年1月~2018年12月の3年間、大阪市内の医療機関(主に小児科)を受診された呼吸器感染症の方の鼻汁等に含まれるウイルスの調査をおこないました。その結果、毎年、5~7月を中心に、ヒトパラインフルエンザウイルス3型の流行が確認されました(図1)。
図1.呼吸器感染症患者からのヒトパラインフルエンザウイルス3型の月別検出数
(2016~2018年)
春~夏に流行する呼吸器感染症の原因ウイルスには、他にヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルスなどがあります。今回は、ヒトパラインフルエンザウイルス3型についてご紹介します。
ヒトパラインフルエンザウイルス感染症
ヒトパラインフルエンザウイルス(human parainfluenza virus: HPIV)(写真)は、インフルエンザという名前がついていますが、インフルエンザウイルスとは全く異なるウイルスです。1950年代に発見されたウイルスで、発見後60年以上が経過しています。インフルエンザウイルスのように医療機関で使用できる診断補助薬(ウイルス検出試薬)がないこと、積極的な調査がおこなわれていないことから、日本におけるHPIVの検出、解析情報は多くありません。
写真 ヒトパラインフルエンザウイルス3型の電子顕微鏡写真
(大阪健康安全基盤研究所撮影)
(1 nm(ナノメートル)= 100万分の1 mm(ミリメートル))
一般的に乳幼児では、HPIV感染により、発熱、鼻水、咳などから気管支炎・肺炎などの重症例まで幅広い症状を引き起こします。HPIVには4つの血清型があり、このうち3型(HPIV-3)が最も多く検出されると報告されています。実際、今回の調査においても、3型 (54件)が最多の検出で、次いで、1型(14件)、4型 (5件)、2型 (3件)の順でした。HPIV-3は、2歳までに約60%が感染すると言われており、生後6ヵ月未満の感染も少なくありません。今回の調査では、HPIV-3 陽性者のうち、1歳が31%と最多で、次いで0歳(28%)、2歳(13%)と、3歳未満が陽性者の72%を占めました(図2)。春から初夏の時期、特に乳幼児にとって、HPIV-3は、注意が必要な呼吸器感染症の原因の1つです。重症の場合、入院治療が必要となります。
図2.ヒトパラインフルエンザウイルス3型陽性者の年齢
成人も感染。集団感染の原因にも。
HPIV-3 は、再感染することが知られています。成人も感染し、発症することがあります。また、HPIV-3は感染力が強いと言われており、保育所や幼稚園、病院、高齢者施設での集団感染の原因になることがあります。
予防と治療について
ワクチンはありません。予防には、手洗いが大切です。治療について、特効薬はなく症状を和らげる対症療法が中心です。乳幼児、高齢者の方は、重症化し、入院治療が必要となることもあります。症状がひどくなりそうなときは、早めに医療機関を受診しましょう。
参考資料
・改田 厚. 乳幼児は注意を!! 春の呼吸器感染症ウイルス
~ヒトメタニューモウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス3型~ https://www.iph.osaka.jp/s009/content/040/20180104062000.html
・改田 厚, 久保英幸, 入谷展弘, 関口純一朗, 長谷 篤. ヒトパラインフルエンザウイルス感染症 (臨床とウイルス 40(3): 142-149, 2012)
・横浜市ホームページ. パラインフルエンザウイルスについて
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/eiken/kansen-center/shikkan/ha/hpiv1.html
・矢野拓弥 他. 高齢者施設におけるヒトパラインフルエンザウイルス3型集団感染事例(2014年7~8月)および小児におけるヒトパラインフルエンザウイルス流行疫学(2014年)―三重県(病原微生物検出情報 36: 163-164, 2015)
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