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大阪健康安全基盤研究所

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遺伝子組換え食品の現状と今後

この記事は2年以上前に掲載したものであり、最新の情報と異なっている可能性があります。

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今年4月1日から遺伝子組換え食品の流通に関する法律が施行され、国・自治体や企業で遺伝子組換え体の検査がおこなわれるようになりました。その結果、じゃがいもスナック菓子から未承認の組換え遺伝子が検出され、企業が自主回収するという事態が幾度も発生しました。

そこで、遺伝子組換え食品について、検査方法や表示制度にふれながら、現状と今後を考えていきたいと思います。

遺伝子組換え作物・遺伝子組換え食品とは

他の生物の有用な遺伝子を作物に導入し、新たに特殊な性質を持たせたものを遺伝子組換え作物といい、その作物を原料に使用した食品を遺伝子組換え食品と呼んでいます。遺伝子組換え作物はGMO(Genetically Modified Organism)と呼ばれる場合もあります。(表1)

表1 安全性審査済み遺伝子組換え作物

 作物  審査済み品種数
大豆 2品種
とうもろこし 10品種
じゃがいも 2品種
てんさい 1品種
なたね 14品種
わた 6品種

遺伝子組換え作物は、新しく獲得した性質から大きくわけて次のふたつに分類されます。一つ目は、害虫の食害を受けない、除草剤で枯れない等、主に生産性や品質を向上させるなど、どちらかといえば生産ニーズに沿ったものです。二つ目は、アレルゲンを含まない、栄養成分を多く含有する等、主に消費ニーズに沿ったものです。現在は前者の性質を持つ品種が多いのですが、今後は消費ニーズの多様化に応じて徐々に後者の性質を持つものが増えてくると思われます。

遺伝子組換え食品の検査法

遺伝子組換え食品の検査法には、導入された遺伝子(DNA)を検査するPCR法と、その遺伝子から作られたタンパク質を検査する酵素免疫抗体法などがあります。
特に、加工食品を検査する場合にはPCR法が用いられます。それは、加工されていく過程で熱や圧力などがかかるためにタンパク質が変性し、タンパク質を対象とした検査が不可能なためです。DNAはタンパク質よりも熱や圧力の影響を受けにくく、加工された食品でも検査が可能です。しかし、加工処理によりDNAが分解されている、あるいは精製処理などによってDNAが除去されている食品については検査はできません。

厚生労働省の遺伝子組換え食品の安全性審査

厚生労働省では、遺伝子組換え作物の食品としての安全性を評価し、食品として適しているかどうか審査をおこないます。この審査は「実質的同等性」および安全性の確認という二段階から成っています。
「実質的同等性」というのは、食用として申請された遺伝子組換え作物と組換えでない既存の作物を比較し、含有成分などに著しい差が認められない場合には基本的に安全とみなすというものです。さらに、導入された遺伝子とその遺伝子からつくられるタンパク質について、安全性試験(消化器等での分解性、アレルギー誘発性、毒性試験など)の結果を評価し、問題がなければ承認されます。

遺伝子組換え食品に関する法律

遺伝子組換え作物は、厚生労働省により承認されたものだけが流通を許される仕組みになっています。そのため、未承認の遺伝子組換え作物は原料、食品中を問わず、少量でもその存在が確認されれば違法となります。一方、承認済みの遺伝子組換え作物を使用した食品は原則として表示義務が課せられます。現在、表示の必要な加工食品は大豆加工食品ととうもろこし加工食品の一部です。

遺伝子組換え食品の表示制度

表示義務のある食品には、遺伝子組換え作物を原料に使用した場合には「遺伝子組換え食品」、遺伝子組換え作物と分別せずに流通している原料を使用した場合には「遺伝子組換え不分別」という表示が必要です。
遺伝子組換え作物を含まない原料を使用した場合には特に表示の義務はなく、「遺伝子組換え体不使用」などの表示は任意で可能です。この場合、産地や流通経路での混入を考慮して、5%までの遺伝子組換え体の混入が許されています。

当研究所の検査法

当所での遺伝子組換え食品の検査は、食品からDNAを抽出し、PCR法を用いて遺伝子組換え食品を検査するという流れでおこなわれます。
DNAの抽出法には様々な方法があり、また食品にも多種多様なものがあります。それぞれの食品に適した抽出法を用いなければ検査に適したDNAの抽出が不可能なこともあり、食品とDNA抽出法の最適な組合わせを求めて色々検討しています。
PCR法を検査に用いる場合、未承認の遺伝子組換え作物については一般的なPCR法を用いて検査しています。一方、承認済みの遺伝子組換え作物の検査では、原料に混入する遺伝子組換え体の正確な含量の確認が必要となるため組換え遺伝子の定量をおこない、その値から原料中の含量を算出します。当所ではリアルタイムPCR装置を導入し、組換え遺伝子の定量をおこなっています。この方法は一般的なPCR法と異なる点が多く煩雑な操作が必要ですが、PCR反応でのDNAの増幅をリアルタイムで検出し、もとのDNA量を測定することが可能な優れた方法です。

遺伝子組換え食品の現状と今後

当所では大豆加工食品の定量検査、じゃがいもを原料とするスナック菓子中の未承認遺伝子組換えじゃがいもの定性検査をおこないましたが、大豆加工食品では全て5%未満、じゃがいも加工食品では全て陰性という結果となりました。
しかし、はじめにも述べたように、未承認の遺伝子組換えじゃがいもの混入事件が頻繁に起きています。また、今後検査件数が増加していくことにより、表示義務違反が見つかることも予想されます。
厚生労働省では未承認の遺伝子組換えじゃがいもの混入が頻発したことから、じゃがいもを原料に使用した食品についても表示制度を適用する方向で検討しています。また、未承認の遺伝子組換え作物についても、今後新しい検査法が追加されていくことと思われます。
このような状況下、当所では、さまざまな食品からのDNA抽出法の検討や、未承認遺伝子組換え作物の検出法の検討をおこない、さらなる検査技術の向上と、より多くの遺伝子組換え体が検査可能となるような検査体制の確立を目指しています。

  • PCR(Polymerase Chain Reaction)とは
    耐熱性DNA合成酵素とプライマ-を使い、温度の上げ下げによりDNAの特定配列を数時間のうちに数百万倍に増やして、微量のDNAを高感度に検出する方法です。
    Polymerase Chain Reaction

食品化学課 吉光真人

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