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大阪健康安全基盤研究所

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地域内の結核の感染伝播について調査をしています

掲載日:2020年3月27日

わが国の2018年人口10万人対新登録結核罹患率(以下、結核罹患率)は13.9で、2020年までに結核罹患率10以下の結核低蔓延国となることを目標としています。結核に関する特定感染症予防指針(厚生労働省:2016年改訂版)では、低蔓延国化に向け分子疫学的手法(患者から分離された病原体を遺伝子レベルで分析し、感染伝播を調べる方法)を積極的に活用した研究の推進が必要であることが明記されています。とりわけ、患者数が多い都市部において結核感染伝播の実態を把握し、結核対策の評価と実状に沿った対策を講じていくことは、日本の結核罹患率低下にも直結すると考えられます。
私たちは、日本国内で最も結核罹患率の高い大阪市あいりん地域(推定結核罹患率300以上)において分離された結核菌株を分析し、あいりん地域の結核感染伝播の実態とこれまでの結核対策の効果について検討しました。

方法

2006~2016年に分離された結核菌596株について遺伝子型別手法である24領域VNTR型別を行い、全24領域が一致した菌株群を同一感染源疑い(クラスター)と定義しました。最近の感染による伝播状況の指標として、患者登録月から2年前までの菌株とクラスターを形成した株数の割合を菌株分離年ごとに算出し、最近のクラスター率として年次推移を見ることで地域内感染伝播の状況を検討しました。また、VNTR型別の結果から各菌株の遺伝系統(非北京型、北京祖先型、北京新興型)を推定し、本地域内での最近のクラスター形成のリスク要因について検討しました。

結果

1. あいりん地域における最近の感染による伝播状況と対策効果の評価

感染の拡大防止に必要な対策は、患者の早期発見と確実な治療です。あいりん地域では、従来から実施していたX線健診を2012年からはホームレスを含む全居住者に拡充しました。この対策により、地域内の全結核患者に占めるX線健診による患者発見割合が2013年から 2016年で17.7% から24.7%に増加しました。また、毎日対面服薬支援 (DOT) 、西成区保健福祉センターでの無償診療、さらには結核患者や結核疑いの対象者への住居・食費を提供する療養支援にも取り組んできました。その結果、結核患者の治療脱落中断割合は2013年の4.5%から2016年の2.8%に低下しました。
結核分離株の遺伝子解析では、最近のクラスター率は有意に低下し(図1)、あいりん地域において最近の感染による伝播が減少傾向であることが明らかとなりました。クラスター率の低下は、上記の結核対策活動が実際に結核感染拡大を防止していると考えられます。こうした傾向を持続させ、あいりん地域のさらなる結核罹患率低下を目指すため、今後もこのような取り組みを引き続き行っていくことが重要と考えられます。
山本2003図1

2.あいりん地域における最近のクラスター形成リスク要因

より効率的な結核対策のため、あいりん地域における結核感染拡大のリスク要因を明らかにする必要があります。最近のクラスター形成に関わる要因分析により、49歳以下であること、肺結核喀痰塗抹陽性であること、結核菌の遺伝系統では北京新興型であることが最近のクラスター形成に関わるリスク要因であることが明らかとなりました。
山本2003表1
あいりん地域内で分離された結核菌の遺伝系統は非北京型が117株 (19.6%)、北京祖先型が251株 (42.1%)、北京新興型が228株 (38.3%)で、2002~2004年における同地域の調査結果および、2004~2013年の日本国内の検出傾向と比較して北京新興型の検出割合が増加していることが分かりました(表2)。これは、あいりん地域内において、北京新興型が最近の感染伝播のリスク要因であり、その結果、同地域内での北京新興型の検出割合が増加したためと考えられました。
山本2003表2
今後、結核罹患率が低下していく中で、結核分子疫学により地域の結核の状況を調査することは、その地域の結核対策の評価および新たな対策の立案に重要です。これからも保健所・関係機関と協力し、継続した調査研究が必要と考えます。

本研究成果は、科学雑誌「Infection, Genetics and Evolution」の2019年8月号に掲載されました。

Yamamoto K., Takeuchi S., Seto J., Shimouchi A., Komukai J., Hase A, Nakamura H., Umeda K., Hirai Y., Matsumoto K., Jun Ogasawara J., Wada T., and Yamamoto T. (2019) Longitudinal genotyping surveillance of Mycobacterium tuberculosis in an area with high tuberculosis incidence shows high transmission rate of the modern Beijing subfamily in Japan. Infect Genet Evol. 72:25-30

お問い合わせ

微生物部 微生物課
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