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大阪健康安全基盤研究所

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大阪市内で検出されたRSウイルスの疫学

掲載日:2020年9月29日

RSウイルス(Respiratory syncytial virus : RSV)は、呼吸器感染症の原因ウイルスで、2歳までにほぼ全てのヒトが感染します。ワクチンはないものの、ハイリスク児には、重症化予防薬であるパリビズマブ(商品名:シナジス)が使用されています。日本で認可されている抗RSV薬はありません。RSV感染症は、感冒様症状を示すことが多い一方で、乳幼児に気管支炎や肺炎等の重篤な下気道炎を引き起こすことがあります。2015年にはRSV感染症のため世界で約320万人が入院加療を要し、約6万人の死亡が推定されています[1]。日本では、RSV感染症は、感染症法の五類感染症(小児科定点)に指定され、全国の小児科定点医療機関(約3,000カ所)から患者発生数が週単位で報告されています。2014年以降、全国で年間10–14万人のRSV感染症患者が報告され、大阪市内では2018年に3,280人のRSV感染症患者が報告されています[2, 3]RSVは世界中に存在し、その疫学研究は国内外で行われています。今回は、RSVの疫学研究に用いられる型について、大阪市内で検出されたRSVの型別結果と併せて紹介します。

RSVのウイルス学的特徴と型

RSVは、非分節一本鎖マイナス鎖RNAウイルスで、ニューモウイルス科オルソニューモウイルス属に分類されます。直径は100–350 nmで、エンベロープを有し、非対称球形あるいはフィラメント状の不定な形態を示します(図1。ウイルスゲノムは、約15,200塩基長で、9個の構造蛋白質と2個の非構造蛋白質をコードしています。RSVは、ウイルス表面にあるGlycoproteinG蛋白質)に対するモノクローナル抗体の反応性の違いから、1988年に2つの血清型(RSV-A, RSV-B)に大別されました[4]。さらに、1998年にG蛋白質のC末端側にある第二可変部位のアミノ酸配列を基に、複数の遺伝子型に分類されました[5]2018年のHibinoらの研究では、RSV-A14の遺伝子型(GA1–7, SAA1–2, NA1–4, ON1)、RSV-B24の遺伝子型(GB1–5, SAB1–4, URU1–2, BA1–12, THB)に分類されています[6]

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大阪市内で検出されたRSVの型別

我々は、大阪市内で検出されたRSVの分子疫学的解析を行い、流行しているRSVの血清型および遺伝子型を調査しました。20141月から201812月に大阪市感染症発生動向調査事業に供与された発熱や呼吸器症状を示す0–6歳(年齢中央値1歳)の患者の呼吸器由来1,037検体を対象としました。Real-time PCRを用いてRSVの検出および血清型の同定を行い、陽性検体についてG蛋白質のコード領域塩基配列の決定を試みました。G蛋白質の第二可変部位を基に分子系統樹解析を行い、RSV-AおよびRSV-Bの遺伝子型を同定しました。1,037検体のうち、119検体(11%)がRSV陽性で、67検体(6%)からRSV-A遺伝子が、52検体(5%)からRSV-B遺伝子が検出されました(図2)。RSV-A 29の遺伝子型を同定し、ON1型が27株(93%)、NA1型が2株(7%)でした。2014年および2015年にはNA1型が1株ずつ検出されたものの、2016年以降は全てON1型が検出されました。また、RSV-B 17の遺伝子型を同定し、BA9型が15株(88%)、BA10型が2株(12%)でした。2014年にはBA10型が2株検出されたものの、2015年以降は全てBA9型が検出されました。以上の結果から、2014年から2018年の大阪市内では、RSV-AおよびRSV-Bが同程度流行しており、RSV-A ON1型およびRSV-B BA9型が優勢を示しました。

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おわりに

2020年のRSV感染症患者報告数は、例年に比べて著しく減少しています[7]20201月以降のCoronavirus Disease 2019 (COVID-19)の世界的な大流行と、その予防対策の徹底が、RSV感染症患者著減の一因であると考えられます。RSVが身近な病原体であることに変わりはありません。RSVの流行予測、効果的なワクチンおよび抗RSV薬を開発するために、今後も継続した疫学調査を実施し、知見を蓄積することが大切です。

参考文献

  1. Chadha M, et al., Human respiratory syncytial virus and influenza seasonality patterns-Early findings from the WHO global respiratory syncytial virus surveillance. Influenza Other Respir Viruses, 2020.
  2. 国立感染症研究所ホームページ感染症発生動向調査年別報告数一覧(定点把握)小児科定点把握疾患https://www.niid.go.jp/niid/ja/ydata/9005-report-jb2018.html
  3. 大阪市感染症発生動向調査事業報告書(結核を除く)2018年(平成30年)版https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/cmsfiles/contents/0000222/222868/R1houkokusho4-9.pdf
  4. Tsutsumi H, et al., Occurrence of respiratory syncytial virus subgroup A and B strains in Japan, 1980 to 1987. J Clin Microbiol 26(6): 1171-4, 1988.
  5. Peret TC, et al., Circulation patterns of genetically distinct group A and B strains of human respiratory syncytial virus in a community. J Gen Virol 79 (Pt 9): 2221-9, 1998.
  6. Hibino A, et al., Molecular epidemiology of human respiratory syncytial virus among children in Japan during three seasons and hospitalization risk of genotype ON1. PLoS One 13(1): e0192085, 2018.
  7. 感染症発生動向調査週報2020年第35週(第35号)https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2020/idwr2020-35.pdf

 

 

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