ノロウイルスにそっくり?サポウイルスにも気をつけて
掲載日:2026年1月21日
感染性胃腸炎、その原因
冬になると、ノロウイルスによる保育園や幼稚園での感染性胃腸炎の集団発生について耳にする機会が多くなるのではないでしょうか。感染性胃腸炎とは、ウイルスや細菌、寄生虫などが原因で、腹痛、下痢、おう吐などの症状を引き起こす感染症の総称です。その原因として最も多いのはノロウイルスですが、他にも原因となるウイルスがあります。その一つがサポウイルスです。
サポウイルスとは
サポウイルスという名前は、初めて発見された「札幌」の地名に由来します。札幌医科大学小児科の論文において「サッポロウイルス(Sapporo virus)」と表記されたことが始まりです。その後、同大学の研究が世界的に評価され、1999年の国際ウイルス分類委員会において種名がSapporo virusと正式に認められました1)。現在の正式名称はSapovirus sapporoenseですが、「sapporo」の名称は今も残されています。
サポウイルスは一言で表すと、「ノロウイルスにそっくりなウイルス」です。ノロウイルスと同じカリシウイルス科に分類され、粒子が球形であり、大きさや遺伝子の種類までそっくりです。引き起こす症状も、下痢、おう吐、発熱が主で、臨床的にノロウイルスと見分けることは困難です。ノロウイルスについては、特定の条件に該当する場合注、医療機関で保険適用の迅速診断キット(イムノクロマト法)による検査を受けることができます。検査でノロウイルスが検出されなかった場合、サポウイルスが原因である可能性も考えられます。サポウイルスはPCR法を応用した検査により遺伝子を検出できますが、医療機関での検査はまだ普及していません。弊所(大安研)を含む地方衛生研究所では、感染症法に基づく感染症発生動向調査や、社会福祉施設などでの集団発生、食中毒が疑われる事例についてサポウイルスの検査を行っています。なお、サポウイルスにもノロウイルスと同様に抗ウイルス剤といった特異的な治療法やワクチンはありません。
注:「3歳未満の患者」「65 歳以上の患者」「悪性腫瘍の診断が確定している患者」「臓器移植後の患者」「抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、または免疫抑制効果のある薬剤を投与中の患者」
サポウイルスの流行
サポウイルスは主に小児の感染性胃腸炎の原因となることが知られています。最近では、大阪府でも2023年に保育園や幼稚園を中心として集団発生が起こりました2)。なお、全国的なサポウイルスの検出状況は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症情報提供サイトでも確認できます3)。また、ノロウイルスと同様に、サポウイルスが食中毒の原因となることもあります。2025年には和歌山県、静岡県、千葉県で食中毒の原因として断定されており、調理従事者からサポウイルスが検出された事例もあります4,5)。
研究の進展
サポウイルスはノロウイルスに比べて症例数が少ないこともあり、まだわかっていないことが多くあります。特に、成人における感染の実態については不明な点が多いのが現状です。しかし、前述のように調理従事者が原因と考えられる食中毒事例が一定数報告されていることから、成人を含めた感染対策が重要と考えられます。
大安研では、感染症の発生や流行の状況を把握するため、下水サーベイランスの実証研究に取り組んでいます6)。下水サーベイランスとは地域の下水中に含まれるウイルスや細菌の遺伝子を調べることで、症状の有無や医療機関への受診の有無にかかわらず、地域全体の感染状況を把握する手法です。この手法を用いることで、小児だけでなく成人も含めたサポウイルスの感染状況を把握できると考え、下水中のサポウイルスの検出を行い、小児患者からの検出状況と比較しました。人に感染するサポウイルスにはGI、GII、GIV、GVという4つの遺伝子群が存在し、さらにそれぞれが細かな遺伝子型に分類されます。解析の結果、下水中から検出されたサポウイルスの遺伝子型の中には、小児患者からの検出に比べて高い割合で検出されるものが存在することがわかりました2)。限られた時期・地域での研究ではありますが、この結果から、医療機関を受診した胃腸炎患者の検査だけでは捉えきれないサポウイルスの感染状況を明らかにすることができました。
日本は現在も、サポウイルス研究をリードする国です。サポウイルスはこれまで人の体外での培養が難しいとされてきましたが、近年の研究成果により実験室での培養が可能となりました7,8)。今後の研究の進展は、類似したウイルスであるノロウイルスの研究にも役立つ可能性があり、感染性胃腸炎研究全体の進展が期待されます。
おわりに
サポウイルスはノロウイルスと同じ予防・消毒方法で対策することができます9)。特に、調理従事者の方は注意が必要です。一般家庭においても次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒液を準備するなど、日頃のノロウイルス対策がサポウイルスの感染予防にも有効です。日常的な感染予防を心がけ、注意していきましょう。
お子様やご自身に胃腸炎の症状があり、原因がノロウイルスではない場合には、サポウイルスというウイルスもあることを思い出してみてください。
参考資料
1) ~9)のリンクは外部サイトにアクセスします。
1) 世界に認知されたサポウイルス―発見と命名への日本の貢献(IASR Vol. 45 p207-208: 2024年12月号)
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/45/538/article/030/index.html
2) Shirai T, Motooka D, Ushikai Y, Komano J, Shioda T, Iida T, Sakon N. Molecular epidemiology of human sapovirus based on the surveillance of wastewater and patients with acute gastroenteritis in Osaka, Japan. Sci Total Environ. 2025 Jul 10;985:179622. doi: 10.1016/j.scitotenv.2025.179622. Epub 2025 May 28.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40440847/
3) 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/graphdata/040/index.html
4)和歌山市のイタリア料理店で19人食中毒、うち12人の便からサポウイルス検出(読売新聞オンライン、2025年3月21日報道)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250321-OYT1T50030/
5)千葉市若葉区の弁当店で食中毒 15人が下痢や吐き気、12人の便から「サポウイルス」 3日間の営業停止(千葉日報オンライン、2025年7月5日報道)
https://www.chibanippo.co.jp/articles/1465284
6) 感染症の発生・流行把握をめざし下水サーベイランスの実証研究に取り組んでいます(大阪健康安全基盤研究所)
https://www.iph.osaka.jp/s007/020/040/wastewater/20250402122915.html
7)Fukuda Y, Ishikawa A, Ishiyama R, Takai-Todaka R, Haga K, Someya Y, Kimura-Someya T, Katayama K. Establishment of a Novel Caco-2-Based Cell Culture System for Human Sapovirus Propagation. Genes Cells. 2025 Mar;30(2):e70007. doi: 10.1111/gtc.70007.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40001267/
8) Oka T, Okemoto-Nakamura Y, Takagi H. CD36 is required for human sapovirus propagation. J Virol. 2025 Nov 25;99(11):e0132525. doi: 10.1128/jvi.01325-25. Epub 2025 Nov 5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41190813/
9)ノロウイルス食中毒を増やさないために(大阪健康安全基盤研究所)
https://www.iph.osaka.jp/s007/030/010/020/323/20220106160314.html
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