コンテンツにジャンプメニューにジャンプ
大阪健康安全基盤研究所

トップページ > 感染症 > あなたの周りの”風邪“、いま何が流行っている?ARIサーベイランスが始まりました

あなたの周りの”風邪“、いま何が流行っている?ARIサーベイランスが始まりました

掲載日:2025年12月18日

ARIって何?

急性呼吸器感染症(ARI:Acute Respiratory Infection)とは、急性の上気道炎(鼻炎、中耳炎、咽頭炎など)または下気道炎(気管支炎、肺炎など)を起こす病原体(ウイルスや細菌)による症候群の総称であり、一般的に「風邪(かぜ)」とよばれています。このARIには、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、ヘルパンギーナなどが含まれ1)、飛沫感染により周囲の人に感染をひろげやすい特徴があります。

本記事では、そのARIが「今どれくらい流行しているのか」を知るための「ARIサーベイランス」について解説します。

咳をする人
喉が痛い人

ARIサーベイランスの目的は?

2025年4月、ARIが新たに感染症法上の5類感染症に追加されたことから、(1)ARIの流行状況を継続的に把握すること、(2)将来、未知の呼吸器感染症が発生した際に早期に気付けるよう、平常時の流行状況を把握すること(=サーベイランス)が必要となりました。

ARIサーベイランスを実施することにより、流行がひろがったときの早期発見、医療の準備(診断キットや薬剤)、住民への注意喚起などに役立てることができます。

感染症法における分類
5類感染症
国が感染症発生動向調査を行い、その結果等に基づいて必要な情報を一般国民や医療関係者に
提供・公開していくことによって、発生・拡大を防止すべき感染症。

大安研ではどんなことをしているの?

大阪健康安全基盤研究所(大安研)は、医療機関から提供された検体を受け取り、感染症の原因となる病原体(ウイルスや細菌)を調べる検査を行っています。また、今大阪で多く検出される病原体の特徴や性質ついて情報を集め、調べています。

これらの情報は、大阪での感染症対策を考えるうえで重要な手がかりとなり、地域の健康を守る基盤となっています。

研究をする人
ウイルス



▼ここから先は少し専門的な内容になります。興味のある方は読み進めてください。

感染症サーベイランス(患者発生サーベイランスと病原体サーベイランス)とは?

サーベイランスとは「注意深く監視すること」を意味しますが、「感染症サーベイランス」は「感染症がどこでどのくらい発生しているのか」を定期的・継続的に調べる仕組みで、(1)患者発生サーベイランス(その感染症と診断された患者情報)と(2)病原体サーベイランス(患者の検体から検出された病原体情報)の2つの調査報告から成り立ちます。

ARIサーベイランスの場合、患者発生サーベイランスでは、都道府県が選定した医療機関(患者定点)から1週間の患者発生数の集計を報告してもらいます。病原体サーベイランスでは、検査情報を集めるために選定された医療機関(病原体定点)で採取された検体が各自治体の地方衛生研究所(大阪では大安研など)に提供され、検査を実施します。患者発生数と病原体の検査の結果は最終的に国の中央感染症情報センター(国立感染症研究所感染症疫学センター内)に集められ、その情報を分析したうえで国民や医療関係者に提供され、これにより感染症の予防や診断・治療に役立てることができます(表1)。

先に述べましたように、地方衛生研究所である大安研では感染症の原因となる病原体の情報を集め、調べています。流行する病原体の特徴や性質を明らかにすることは地域での感染症対策を検討する際に重要な手がかりとなります。このような取り組みにより感染症の発生やひろがりを防ぎ、地域の健康を守ることが感染症サーベイランスの目的です。

【表1】5類定点把握疾患のサーベイランス体制
担当する定点 情報や検体の流れ(概略) 報告内容
患者定点
(患者情報の届出)
医療機関→保健所→地方感染症情報センター→中央感染症情報センター その感染症と診断された
患者情報
病原体定点
(検体の提供)
医療機関→地方衛生研究所(大安研)で検査を実施→結果を中央感染症情報センターへ報告 患者の検体から検出された病原体(ウイルスや細菌)情報

ARIサーベイランスではどのような症例を調査するのか?

ARIサーベイランスの対象となるのは、咳、咽頭痛、呼吸困難、鼻水、鼻詰まりのいずれか1つの症状があり、その症状が10日以内に始まった急性のもので、医師が感染症を疑う外来症例です。

ARI病原体定点に指定された医療機関から、毎週、一医療機関あたりARIと診断された患者から採取した5検体(5症例分)を目標に提出してもらい、その検体について大安研で検査を行っています。

なぜARIサーベイランスを開始したのか?

新型コロナウイルス感染症流行の経験からわかるように、呼吸器感染症は飛沫感染により周囲の人に感染をひろげやすい性質をもちます。
ARIサーベイランスは、(1)感染がひろがりやすいARIの動向を把握すること、(2)今後また新型コロナウイルス感染症のような「未知の」呼吸器感染症が発生した場合に素早く見つけることができるよう、普段の流行状況を把握しておくこと、を目的として開始されました。

ARIに含まれるRSウイルス感染症などは、これまで小児科定点からの報告によりその流行状況を把握してきました。この場合、その感染症を疑って診断キットを使用するかどうかなど、医師の判断によって結果に偏りが生じる可能性がありました。
ARI病原体サーベイランスの場合、呼吸器症状のある患者の検体を無作為に収集し、原因の病原体(ウイルスや細菌)の割合を調べることができるため、実際の流行状況をより正確に把握できると考えられます。

日本では今年からARIサーベイランスが開始されましたが、欧米など海外では以前から実施されています。世界保健機関(WHO)は新たな感染症の発生の迅速な探知やARIの流行状況の把握を目的として、インフルエンザ様疾患(ILI:Influenza-Like Illness)、ARI、重症急性呼吸器感染症(SARI:Severe Acute Respiratory Infection)サーベイランスの実施を推奨しています2)

実際の検査はどのようなもの?

大安研では医療機関から提出された患者検体(鼻咽頭ぬぐい液や鼻水など)について、最大20項目(表2)のウイルスを検出する遺伝子検査3)を実施し、ウイルスが検出されなかった検体の一部については細菌検査を実施しています。検査項目のウイルスにはあまり聞きなれないものも多いですが、一口に「風邪」といっても様々な病原体によってその症状が引き起こされています。

【表2】ARIの検査項目(大安研)
RSウイルス(A型、B型) ヒトメタニューモウイルス
ヒトパラインフルエンザウイルス (1~4型) インフルエンザウイルス(A型、B型、C型)
ヒトコロナウイルス(229E、OC43、NL63、HKU1) ヒトボカウイルス
ライノウイルス エンテロウイルス
ヒトパレコウイルス アデノウイルス
新型コロナウイルス  

現在までの結果は?

ARI病原体サーベイランスの開始(15週:2025年4月7日~)から43週(2025年10月20日~)までの大阪府感染症情報センターのホームページで公表されている府内の検査結果(ウイルス12項目)を示します(図1、図2)4)
virus_detection

【図1】ウイルスの検出数

検出数(図1)だけでは、現在何が流行しているのか一目でわかりづらいですが、検出割合(図2)を算出することで、どのウイルスが原因の感染症が主に流行しているのかを把握することができます。

図2から、4~6月頃(15~26週)にヒトパラインフルエンザウイルス3型、7月末~10月頃(31~42週)にRSウイルスが流行していることなどがわかります。ライノウイルスやエンテロウイルスは調査期間を通じて検出されており、同じような「風邪」症状でも様々なウイルスが原因となっていることがわかります。

virus_detection_rate

【図2】ウイルスの検出割合


今後、ARIサーベイランスをどう活用するのか?

ウイルスによる呼吸器感染症の多くには治療薬がありません(インフルエンザや新型コロナウイルス感染症を除く)。しかし、ARIサーベイランスによって流行状況を適切に把握し、地域住民への注意喚起を早めにすることや、医療機関での診断キットや薬剤の準備など医療体制整備につなげることで地域の公衆衛生の向上に役立てることができます。

たとえば、RSウイルス感染症は乳児だけでなく高齢者でも重症化する可能性がある感染症ですが、これまでは小児における流行状況のみ調査されていたため、ARI病原体サーベイランスによって成人の感染状況を把握できるのは大きなメリットです。
RSウイルス感染症については、昨年から新たに高齢者および妊婦用ワクチンの接種が開始されました。乳幼児においては、ハイリスク児のみを対象としていた既存の抗体医薬に加え、全ての乳児を対象とした改良型の抗体医薬の投与が始まりました。妊婦用ワクチンが2026年4月から定期接種化される方針であること、乳幼児向けの抗体医薬についても適切な時期の投与が重要であることから、成人を含めた流行状況把握の必要性が高まっているといえます。

また、新型コロナウイルス感染症の大流行を教訓として、ARIサーベイランスにより平常時のARIの流行状況を把握し異常を早期に検知できる体制を整え、次に起こりうるパンデミックに備えることは非常に重要です。


参考資料

1) ~3)のリンクは外部サイトにアクセスします。

1) 急性呼吸器感染症(ARI)(厚生労働省)(2025年11月12日アクセス)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ari.html

2) “Crafting the mosaic”: a framework for resilient surveillance for respiratory viruses of epidemic and pandemic potential(8 March 2023)
https://www.who.int/publications/i/item/9789240070288

3) Kaida A, Kubo H, Takakura K, Sekiguchi J, Yamamoto SP, et al. Associations between co-detected respiratory viruses in children with acute respiratory infections. Jpn J Infect Dis. 2014;67(6):469–475.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25410563

4) 大阪府感染症情報センター、病原体検出情報、急性呼吸器感染症(更新日:2025年11月6日、2025年11月12日アクセス)
https://www.iph.pref.osaka.jp/040/o-iasr/20250521114643.html


お問い合わせ

微生物部 ウイルス課
電話番号:06-6972-1402